この記事のポイント
- 勤怠データをAIに渡すだけで、36協定の違反チェックが自動で走る
- 残業時間の集計と給与明細のドラフトを一気に生成できる
- 「スタッフ0人で顧問先60社」を回す税理士事務所の事例が示す、AI活用の現実解
はじめに
「月末の勤怠集計に丸一日かかる」「36協定を超えていないか、毎月ヒヤヒヤしている」
人事労務の担当者にとって、勤怠管理と給与計算は毎月確実にやってくる定型業務です。しかし「定型」のはずなのに、例外処理や確認作業に追われて時間がかかる。深夜勤務の割増計算、休日出勤の振替確認、36協定の上限チェック。ミスが許されない業務だからこそ、慎重にならざるを得ません。
X上では「スタッフ0人の税理士がClaude Codeで顧問先60社を1人で回している」という事例が話題になりました。これは極端な例かもしれませんが、AIによる「前さばき」が人事労務業務のあり方を変えつつあるのは事実です。
人事労務バックオフィスの課題
freeeのバックオフィス基礎知識によると、人事労務業務は多岐にわたります。
| 業務 | 内容 | 課題 |
|---|---|---|
| 勤怠管理 | 出退勤記録の集計・確認 | 手作業での集計ミス、例外処理の属人化 |
| 給与計算 | 基本給・残業代・各種手当の計算 | 計算ルールが複雑、法改正への対応 |
| 36協定管理 | 残業時間の上限管理 | リアルタイムでの把握が難しい |
| 年末調整 | 従業員の所得税精算 | 年1回だが膨大な作業量 |
| 社会保険手続き | 入退社・異動に伴う届出 | 期限管理が煩雑 |
特に中小企業では、これらを1〜2名で兼務しているケースが多く、属人化による業務停止リスクが深刻な課題です。
AIで何が自動化できるのか
AIが得意なのは「ルールが明確な定型作業」です。人事労務の中でも以下はAIとの相性が良い領域です。
自動化できること
| 業務 | AIがやること | 人間がやること |
|---|---|---|
| 勤怠集計 | CSVの解析・残業時間の自動算出 | 最終確認 |
| 36協定チェック | 上限超過の自動検知・アラート | 対応判断 |
| 給与明細ドラフト | 基本給+残業代の試算 | 控除計算・最終確定 |
| シフト確認 | 連続勤務・深夜勤務の検出 | 調整・承認 |
人間が判断すべきこと
- 社会保険料・所得税の控除計算(法令に基づく正確な計算が必要)
- 例外的な勤務形態の承認(裁量労働・変形労働時間制など)
- 従業員への通知・面談
「AIがすべてやる」のではなく、「AIが前さばきし、人間は判断に集中する」という分業がポイントです。
実際にAIで勤怠チェックをやってみる
入力: 勤怠データ(CSV)
従業員名,日付,出勤,退勤,休憩
田中太郎,2026-03-01,09:00,18:00,1:00
田中太郎,2026-03-02,09:00,21:30,1:00
田中太郎,2026-03-03,09:00,22:30,1:00
田中太郎,2026-03-04,09:00,20:00,1:00
田中太郎,2026-03-05,09:00,23:00,1:00
田中太郎,2026-03-06,10:00,19:00,1:00
田中太郎,2026-03-07,休日
田中太郎,2026-03-08,09:00,18:00,1:00
AIが生成するレポート
# 勤怠レポート: 田中太郎
> 対象期間: 2026-03-01 〜 2026-03-08
## サマリー
| 項目 | 値 |
|------|-----|
| 出勤日数 | 7日 |
| 総労働時間 | 66時間30分 |
| 所定内労働時間 | 56時間 |
| 残業時間 | 10時間30分 |
| 深夜勤務時間 | 1時間(3/5 22:00〜23:00) |
| 休日出勤 | 0日 |
## 36協定チェック結果
- [○] 月間残業時間: 10時間30分 / 上限45時間
- [警告] 3/5に深夜勤務あり(22:00〜23:00)→ 割増賃金の対象
- [警告] 3/2〜3/6に5日連続で残業発生 → 健康管理の観点から注意
## 日別明細
| 日付 | 曜日 | 出勤 | 退勤 | 休憩 | 労働時間 | 残業 | 備考 |
|------|------|------|------|------|---------|------|------|
| 3/1 | 日 | 09:00 | 18:00 | 1:00 | 8:00 | 0:00 | |
| 3/2 | 月 | 09:00 | 21:30 | 1:00 | 11:30 | 3:30 | 残業 |
| 3/3 | 火 | 09:00 | 22:30 | 1:00 | 12:30 | 4:30 | 残業 |
| 3/4 | 水 | 09:00 | 20:00 | 1:00 | 10:00 | 2:00 | 残業 |
| 3/5 | 木 | 09:00 | 23:00 | 1:00 | 13:00 | 5:00 | 残業+深夜 |
| 3/6 | 金 | 10:00 | 19:00 | 1:00 | 8:00 | 0:00 | |
| 3/7 | 土 | 休日 | - | - | - | - | |
| 3/8 | 日 | 09:00 | 18:00 | 1:00 | 8:00 | 0:00 | |
勤怠データを渡しただけで、残業集計・深夜勤務の検出・36協定チェックまで一気に実行されました。
給与明細ドラフトも同時に生成
時給や月給の情報を添えれば、給与明細のドラフトも生成できます。
## 給与明細ドラフト: 田中太郎(2026年3月分)
| 項目 | 時間 | 金額 |
|------|------|------|
| 基本給(月給) | - | ¥280,000 |
| 残業手当(×1.25) | 10.5h | ¥22,969 |
| 深夜手当(×0.25) | 1.0h | ¥437 |
| 支給額合計(税引前) | - | ¥303,406 |
※ 社会保険料・所得税・住民税の控除は含まれていません。
※ これは確認用ドラフトです。正式な給与計算は給与計算ソフトで行ってください。
あくまでドラフト(下書き)ですが、「だいたいこのくらいになるはず」という確認には十分使えます。
「スタッフ0人で60社」の背景
Xで話題になった税理士事務所の事例は、まさにこうした「前さばき」の徹底によるものです。
| 従来のやり方 | AI活用後 |
|---|---|
| 顧問先ごとに勤怠データを手集計 | CSVを渡してAIが一括集計 |
| 36協定を目視チェック | 自動検知・アラート |
| 給与計算を1社ずつ | ドラフト一括生成→確認のみ |
| 月末に残業して対応 | 日常的に処理が回る |
AIが「処理」を担い、人間は「確認と判断」に専念する。この分業が成立すれば、少人数でも多くの顧問先を回せるようになります。
Skillとして仕組み化する
勤怠チェックのルールをSkillとして定義しておけば、毎月同じ品質で自動チェックが走ります。
Skillに定義する内容
| 定義項目 | 内容 |
|---|---|
| 36協定の上限値 | 月45時間(または個別設定) |
| 深夜勤務の定義 | 22:00〜05:00 |
| 割増率 | 残業1.25倍、深夜0.25倍加算、休日1.35倍 |
| 出力形式 | 勤怠レポート + 給与ドラフト + CSV |
| アラート基準 | 残業36時間以上で警告、45時間超で違反 |
効果を上げるためのコツ
勤怠データは統一フォーマットで
AIに渡すCSVのフォーマットを統一しておけば、毎月のルーティンがスムーズになります。「日付、出勤時間、退勤時間、休憩時間」の4列があれば十分です。
月中でもチェックを回す
月末にまとめてチェックするのではなく、週次でAIに渡して途中経過を確認する運用がおすすめです。36協定の上限に近づいている従業員を早期に発見できます。
複数従業員を一括処理する
CSVに全従業員分のデータをまとめて渡せば、全員分のレポートが一括で生成されます。個別に処理する必要はありません。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| AI勤怠チェックとは | 勤怠データをAIに渡して、残業集計・36協定チェック・給与ドラフトを自動生成する仕組み |
| 最大のメリット | 「前さばき」を自動化し、人間は確認と判断に集中できる |
| 活用先 | 月次の勤怠集計、36協定の常時モニタリング、給与計算の下準備 |
| 注意点 | 正式な給与計算・社会保険料計算は専門ソフト・税理士に委ねる |
関連記事
参考リンク
- freee バックオフィス基礎知識 — バックオフィス業務の基礎解説
- 畠山謙人|AI税理士事務所(X) — スタッフ0人で60社を運営する税理士の実践事例
- 畠山謙人|note — AI活用の具体的なワークフロー解説
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